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2018.11.01(木)

11月の法話

「人生は、長い目で、今この時を生きることだよ」

平成三十年九月十五日、女優の樹木希林さんがお亡くなりになりました。七十五歳とお聞きして随分お若いなと感じたことでした。私がブラウン管を通して希林さんの登場するドラマ『寺内貫太郎一家』を楽しんでいたのは四十年以上も前のことです。その当時から希林さんが、コミカルなおばあちゃん役を演じていたことが強烈な印象として残っていました。『男はつらいよ』の「御前様」で有名な笠智衆さんが永遠のおじいちゃんであるなら、女優としての樹木希林さんは、私にとって、永遠のおばあちゃんとしての存在でした。

その希林さんがお茶の師匠役を演じた映画『日日是好日』が十月十三日に公開されました。原作は森下典子さんの自伝エッセイ『日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせー』です。典子さんご自身が、いつも不安で自分の居場所を探し続けた日々のなかで、大学生のころから二十五年間続けてきた週一回のお茶の稽古を通じて、教えられ気付かされたことが綴られています。

お茶の世界では、正月に恒例の初釜がやってきます。初釜には、必ずその年の干支にちなんだお茶碗が登場します。同じお茶碗が再び日の目を見るのは、十二年後です。あと自分が生きているうちに数回しか出遇うことのできないお茶碗を眺めながら、「みんな、はるか彼方から自分の人生を見ている」のだそうです。「私は、この十二年周期のサイクルを、あと何周するだろう?」「お茶は、季節をめぐりながら、干支のサイクルを永遠にめぐり続ける。それに比べて、人の一生は、せいぜい六周か七周。それがいかに限りある時間かということを垣間見る。そして、限りがあるからこそ、慈しみ味わおうと思うのだ」と綴られています。

そのとき典子さんは、干支の茶碗が、「いろいろなことがあるけれど、気長に生きていきなさい。じっくり自分を作っていきなさい。人生は、長い目で、今この時を生きることだよ」と、言っているような気がしたそうです。手のひらに包まれたお茶碗から、自分自身の生きる世界が映された瞬間だったのでしょう。

親鸞聖人は、師である法然上人との学びの中で真実に出遇えた喜びと感動を、和讃にのこされました。
「曠劫多生のあいだにも 出離の強縁しらざりき 本師源空いまさずは このたびむなしくすぎなまし」

永遠の長い時を迷いさまよってきたけれども、苦しみの迷路から抜けだすだけの真実の道を見いだすことはできなかった。今、迷路の途中で、確かな道しるべを指し示してくださる先生がいた。もし先生が居られなかったならば、またも空しく人生は過ぎたであろうと、親鸞聖人は、迷いの中にありながら、今この時を生きていく確かな道が開かれていることを感動をもって喜ばれたのだと思います。

今、樹木希林さんの「死」に出遇い、森下典子さんの生きる「お茶」の世界にふれさせていただきました。茶道であれ仏道であれ、道はお互いに交わるのであろうと思います。今度は、私にとっての「永遠のおばあちゃん」が師匠役を演じる、「お茶」の世界にも足を踏み入れてみたいと思っています。

江戸川本坊 松田大空